ファクタリングと債権譲渡登記
登記といえば「不動産登記」「法人登記」をイメージする方が多いと思いますが、実は債権や不動産以外の特定物に対しても登記が可能です。
さらに、売掛金や未収金を譲渡した場合はその旨を登記することができ、当該登記の事を「債権譲渡登記」と呼びます。
あまり聞き慣れない言葉ですが、ファクタリング取引では避けては通れない手続きですので、制度の概要やどのようなリスクや影響があるのかを最低限知っておく必要があります。
当ページでは、そもそも債権譲渡登記とは何なのか、どのような効力が発生するのか又はどのような場面で必要なのか、どんなデメリットがあるのか等を解説します。
債権譲渡登記のメリットとは
登記とは、法人・個人・不動産・財産などの権利関係が公衆に知られる状態にする法的制度のことで、債権譲渡登記はその中の一種に当たります。
その名の通り、債権が譲渡された旨を登記することを意味し、特に2社間ファクタリングをする際は当該手続きを経るのが原則です。
なぜ債権譲渡登記が必要かと申しますと、当該手続きによって法律関係・権利関係を第三者に主張できる効力(第三者対抗要件)を備えられるためです。
第三者への対抗が可能となることで債権者は正当な権利者であることを主張できるようになり、ファクタリング会社は既に他の業者に売られている売掛債権を買い取ってしまうリスクの軽減にも繋がります。
つまり、簡単に言うと債権譲渡登記には「この売掛債権の権利は自分にある。」ということを第三者に知らせる効果があるのです。
なお、債権譲渡登記は債務者に対する対抗要件とはならず、あくまでも当事者間及び債務者を除く第三者に対してのみ効果を有するという点にご注意ください。
債権譲渡登記にはファクタリング会社側にとって多くのメリットがあります。
例えば、債権譲渡登記をすることによって、以下のような利点を生み出すと考えられます。
メリットその1~保全としての活用
債権譲渡登記が無かった時代には「ファクタリング利用企業・ファクタリング会社・売掛先」の3社間の合意のもとでファクタリングが行われるのが一般的でした。
しかしながら、クライアントに当たる売掛先から「経営状況が悪いのでは」「業務を遂行できるのか?」とあらぬ疑いを掛けられてしまう恐れも否定できません。
そこで、ファクタリング会社では「2社間方式」と呼ばれる取引スキームを確立させました。
これは、文字通りファクタリング会社と利用企業間に於いて行われる取引方法で、売掛先への通知や承諾が不要というメリットがあります。
一方で、当該取引はファクタリング会社側のリスクが大きい取引方法ですので、利用する条件の一つとして「債権譲渡登記」が設けられるようになったのです。
もちろんこれはファクタリング会社保護の観点であると言えますが、保全によって買取に応じてもらえる可能性が高まるのであれば、間接的に利用企業側にもメリットがあります。
なお、実際には登記をせず、書類だけ預かっておくという運用が実務上は多いようです。
メリットその2~二重譲渡が防止できる
二重譲渡とは、ファクタリング利用者が1つの売掛債権を複数のファクタリング会社へ売却し、それぞれから買取金を受け取るという詐欺の一種です。
二重譲渡をされてしまうと、対抗要件次第では当該債権を回収できなくなってしまいますので、ファクタリング会社にとっては大きな脅威と言えます。
しかし債権譲渡登記を行っておけば、万が一利用者がファクタリング会社へ引き渡すべき金銭を使い込んでしまった場合であっても自社が権利者である旨を主張できますので、銀行口座や財産を差し押さえる等で債権回収を図ることが可能です。
したがって、債権譲渡登記は権利者を明確にするだけではなく、二重譲渡を防ぐ役割も担っていると言えるでしょう。
なお、債権譲渡登記を不要とするファクタリング会社も存在しますが、手数料が相場より少し高かい・高額な債権の買取には対応していない等のケースがあります。
債権譲渡登記を行うデメリット
ファクタリング会社側にとっては多くのメリットがある債権譲渡登記ですが、利用者側には以下のようなデメリットが考えられます。
デメリットその1~売掛先に知られる可能性
登記簿は誰でも閲覧できるため、非常に薄い可能性ではありますが、取引先(売掛先)に当該登記事項を見られてしまう恐れがあります。
今後の取引に悪影響が及ぶ可能性も否定できませんので、債権譲渡登記の最も大きなデメリットと言っても過言ではないでしょう。
まだ取引をはじめて日が浅い場合、実体確認のために財務状況や登記簿謄本を確認されるケースがありますので、状況によっては債権譲渡登記が不要のファクタリングサービスを選んだ方が安全です。
なお、債権譲渡登記がなされているかの確認は「譲渡人の本店を管轄する法務局にて概要記録事項証明書(動産)」を取得する方法が一般的です。(概要記録事項証明書の見本)
デメリットその2~融資審査への影響
銀行や消費者金融等で融資を受ける場合、財務状況や税金関係の申告・納付状況については必ず確認・調査されます。
稀ではありますが概要記録事項証明書まで確認されるケースがあり、債権譲渡登記が融資審査において不利に働く可能性も否定できません。(もちろん、債権譲渡登記を行ったからといって必ずしも審査に通らないわけではなく、あくまでも可能性の話という点にご留意ください。)
後から判明してしまうと心証を悪くする恐れもありますので、債権譲渡があった事実を予め伝えておくのも一つの手です。
少額債権であれば登記無しプランがベター
債権譲渡登記は、ファクタリング会社側にとってはメリットが大きいものの、利用者側には然したるメリットが無く、デメリットやリスクの方が大きい制度と言えます。
中には「登記が不要」というファクタリング会社もありますので、リスケ中・融資審査中等の場合はこのようなサービスを利用するのも一つの手です。
ただし、登記不要の場合はファクタリング手数料が相場より少し高い・審査が厳しくなる等の可能性がありますので、事前相談の段階でしっかりと料金を確認しておきましょう。